私は心理学専攻の社会人大学生です。
臨床心理学の指定テキストである『自分のこころからよむ臨床心理学入門』という書籍が大変興味深い内容なので、ブログに読書メモとして残していこうと思います。ご興味持っていただけた方は、ぜひ書籍を読んでいただけたらと思います。
今回は第1章「抑うつ」の読書メモです。
1.抑うつ
抑うつとは?
「抑うつ」という言葉の中には、「抑うつ気分」、「抑うつ症状」、「うつ病」という異なる3つの意味が内包されている。
抑うつ気分は、滅入った気分(悲しくなった、憂鬱になった、ふさぎ込んだ、落ち込んだ)を意味するのに使う言葉だ。抑うつ気分は一時的なものから、2週間以上持続するものまであり、抑うつ気分の程度はビジュアル・アナログ・スケール(VAS)という尺度で測定する。
抑うつ症状は抑うつ気分とともに生じやすい状態のことで抑うつ気分に加えて、興味を失う、疲れやすい、自殺願望、集中力欠如、食欲減退、体重の大幅な増加または減少、将来への悲観といった症状が現れる。
うつ病という言葉があるが、抑うつ症状とは異なる概念。うつ病は病気として判断する明確な基準がある。うつ病と判断するには以下の点を満たす必要がある。
- 抑うつ気分が一定期間持続すること
- 抑うつ気分に関連したいくつかの抑うつ症状が存在すること
- 器質的原因(体の状態による原因)や、物質性の原因(アルコールや薬物など)によって抑うつ症状が生じたものではないこと
- 統合失調症などの精神疾患に該当しないこと
欧米で行われた調査によると、うつ病の生涯有病率はおよそ10%程度とのこと。つまり、10人に1人が生涯で1回以上はうつ病の診断基準を満たすような状態にあるということだ。
どうして抑うつになるのか
抑うつになるかどうかは、その人の考え方の癖やスタイルが影響している。
エイブラムソンらの「帰属理論」
原因を何のせいにするかで抑うつになるかどうかが決まるという理論。自分のせいであると考える傾向があったり、いつもこうなると考える傾向があると抑うつになりやすい。物事の原因を考える時のその人の癖を、帰属スタイルという。
帰属スタイルはそれまでの経験や環境から身についたもので、「自分ではどうにもできない」という経験から身についてしまった無力感ものは学習性無力感と呼ばれる。
学習性無力感の中でも、その原因が自分にあるのだと本人が思っている無力感のことを改訂学習性無力感理論としてエイブラムソンが定義した。
改訂学習性無力感理論によると、何をやってもダメだ・コントロール不能だと思うことが、抑うつの発生には必要。
何をやってもダメ・コントロール不能と感じる程度は、それは自分のせいか(内在性の次元)、いつもそうなのか(安定性の次元)、そしてどのような場面であってもそうなのか(全般性の次元)といった、原因帰属の3次元を測定する。
内在性の次元が低い場合、「自分のせいばかりでもないな」と考えて抑うつになりにくい。安定性の次元が低い場合、今回だけだったなと捉えてやはり抑うつになりにくい。全般性の次元が低いと、これに限った話だったなと捉えてやはり抑うつになりにくい、といえわけです。逆であれば、抑うつになりやすいというわけだ。
で、これら「出来事の原因を何に帰属させるのか」は個人差があるので、同じ体験であっても抑うつになりやすい人となりにくい人がいる、ということだ。
ベックらの「認知のゆがみ理論」
抑うつになりやすい人は不合理な信念を持っており、ネガティブな出来事をよりネガティブな方向にゆがめて解釈して落ち込んでしまうというのが、認知のゆがみ理論。
たとえば、その人の中の「xxxすべきだ」であったり、「いつもxxxであってほしい」、「xxxでなければいけない」といったその人のこだわりともいえる。このこだわりが一般的に合理的とは言い難い場合、不合理な信念を持っているといえる。
これらのこだわりから少しでも逸脱すると、「完全にダメだ」といった極端な考えに繋がり、抑うつを発生させるというと考えられる。
ベックの理論が革新的だったのは、それまでは抑うつは感情の障害であり認知的障害はその二次的なものであると考えられていたのを、抑うつの本質は認知の障害であると明らかにしたこと。
抑うつ感情は直接抑えるものではなく、抑うつ的な認知を変えることで抑うつ感情をコントロールすることができる。このようなベックの理論は、その後認知療法の基礎にもなっている。
自動思考
抑うつ症状は、自分の意思とは関係なく意識にのぼってきてしまう。自動的に脳裏に浮かんでくるので、自動思考という。抑うつを生み出す自動思考は、自己(例:自分はやっぱりダメだ)・世界(例:まわりと上手くいかない)・未来(例:これから先もずっとダメだ)という3つの領域にわたってネガティブな思考内容で占められており、抑うつ認知の3大徴候と呼ばれている。
推論の誤り
抑うつ的な人の推論は独特であり、次のような体系的な推論の誤りが見られる。
- 恣意的推論: 根拠もないのにネガティブな結論を引き出してしまう
- 選択的注目: 些細なネガティブに注目してしまう
- 過度の一般化: 一部のことを「きっと全部そうだ」と思ってしまう
- 拡大解釈と過小評価: 小さな失敗を拡大解釈し、自分はダメな人間だと過小評価する
- 個人化: 自分とは関係のないネガティブな出来事を、自分に関連づけて考えてしまう
- 完璧主義・二分法的思考: ものごとに白黒をつけないと気が済まない、完璧でないと気が済まない
抑うつスキーマ
抑うつスキーマとは、自動思考とその後の抑うつを生じさせる、より深層にある信念や態度のことを指す。「xxxすべきだ」、「いつもxxxだ」、「xxxかzzzのどちらかしかない」といった考え方をよくする。
そして、抑うつスキーマは幼児期のネガティブな体験などによって形成されると考えられている。
ベックの抑うつ理論では、もともと抑うつの素因となるもの=抑うつスキーマを持っていた人が、ネガティブな出来事を経験して抑うつになってしまうと考えている。
ピズンスキーとグリーンバーグの「抑うつ的自己注目スタイル理論」
抑うつ的な人は、ネガティブな状況で自分についての考えから抜け出せず、自分自身に注意を向けることや自分について考える「自己注目」をしている。この自己注目に関する理論を抑うつに応用し、ピズンスキーとグリーンバーグは「抑うつ的自己注目スタイル理論」を発表した。
この理論の中心は以下の2点。
- 抑うつ的な人は、ポジティブな出来事のあとの自己注目を避け、ネガティブな出来事のあとに自己注目をするという、自己注目スタイルを持つ
- 抑うつ的ではない人は、ポジティブな出来事のあとに自己注目し、ネガティブな出来事のあとに自己注目を避ける
ネガティブな結果の後の自己注目がなぜやめられないのか
ネガティブな出来事のあとに自己注目することによってネガティブな自己イメージを維持し、将来大きな失望や幻滅を味わう危険性を潜在的に少なくしようとしているため。
つまり、自己評価を下げることで今後に期待するのをやめておこうという、自分を守るための行動とも言える。
また、ポジティブな結果に注目がいかないのは、ネガティブな状況を解決したいので努力しているという状況で、ポジティブなことに注目するのはその努力を妨げていると考えてしまうため。
自己への注目が長引くと抑うつに影響する
ピズンスキーらは、自己への注目が長引くことが抑うつに影響すると述べている。
落ち込んだときに、自己に注意を向けるか、自己から注意を逸らすことができるかが、抑うつからの回復を左右するカギとなる。上手に自分から注意を逸らし、気晴らしをすることができるなら、抑うつを強めなくてすむ。
ノレン-ホエクセーマらによると、落ち込んだ気分への対処法には大きく分けて「気晴らし」と「考え込み」があると述べている。
落ち込んだ気分とは無関係の行動をするという「気晴らし的な対処」をしたほうが、落ち込んだ気分について考え込むよりも落ち込みからの回復が早いことを報告している。
抑うつ気分への対処法を知ることは、うつ病といわれるようなより重い状態にならないよう、予防につながる。こころのカゼである抑うつへの自分なりの対処法を考えてみてほしい。
どんな状況で自分について考えればよいか
人が自己について考えてしまう状況は以下の6つに大別できる。
- 対人状況: 自分について何か意見を言われたときや、人間関係で揉めたときなど
- ネガティブ状況: 嫌なこと、心配ごと、悲しいことがあったときなど
- ポジティブ状況: 楽しいこと、良いことやうまくいったことがあったときなど
- 観察者状況: 尊敬する人や素晴らしい人と接したとき、読書したあとなど
- ひとり状況: ひとりで家にいるときや、暇で何もすることがないときなど
- うらやみ状況: 楽しそうにしている人を見たときや、他の人を羨ましく思うときなど
そして、自己没入の高い人は「ひとり状況」で自己に注意が向きやすいという結果が出ている。自分について考えること自体が問題なのではなく、自分について考えるタイミングや方法が重要と言える。
落ち込んでいるときに、ひとり自分の中だけで考え込むというのは適切な方法とはいえない。友達や親兄弟、あるいは教師やカウンセラーといった人たちに自分のことを話して一緒になって考えてもらうような経験が望ましい。
抑うつとどう付き合うか
抑うつとは、それを引き起こす“嫌なこと”が原因だというよりも、“自分が自分を見る見かた”の方に原因があると考えた方が良さそうだとこの書籍の著者は論じている。
これは、書籍「嫌われる勇気」で知られるアドラーにも通じるもので、自分がコントロールできない他者のことをどうにかしようと考えるよりも、自分がコントロールできる自分のことを(自分の考え方の癖や信念を)どうにかしようとする方が、建設的だし話が前に進むということだ。
これまで述べてきたように、抑うつの認知理論では「ネガティブな原因帰属」、「認知のゆがみ」、「ネガティブなときの自己注目」が、抑うつを生じさせると考えられている。
つまり、これらの逆をすることで抑うつを生じさせない、または抑うつからの回復に効果的と言える。ネガティブな結果を自分のせいにしない、ネガティブに捉えがちな自分の認知の癖を把握してポジティブに捉える、ネガティブなときに自分について考え込まずに気晴らしをする、といった具合だ。
専門的なやり方としては、認知療法では「非機能的思考記録」という方法を用いて、自分の思考の癖やネガティブな自動思考が生じる事象を探っていく。
また、そこまで専門的に踏み込まなくても、抑うつな気分のときは「考え込まない」ことが大切だ。考え込むば考え込むほど、抑うつ気分は持続しやすい。
気分の落ち込みからの立ち直りには、考え込むよりも気分転換する方が効果的だと、この書籍の著者は述べている。
Satoshi Haradaの感想
ネガティブな結果を自分のせいとして捉えないことや、考え込まずに気晴らししてほしいという書籍筆者の主張、皆様はどう思いましたか?
もしかしたら他責思考で無責任だなと感じる人もいるかもしれません。ですが、抑うつになりやすい人は責任感が強く、他責思考よりも自責思考でものごとを考える人なのです。
社会人として生きていく上で、ものごとを自分ごととして捉え、責任感を持って取り組むことが推奨されています。そのような人が上手く心のバランスを取って抑うつにならずに生活をできているのなら何の問題もありません。
忘れてはいけないのは、社会から求められる責任感や自責の念に対して、ある人は上手く対応できるし、ある人は上手く対応できない場合があるということです。
そして上手く対応できない人は、それまでの発達の中で直面した経験や積み上げた信念から、「認知のゆがみ」を身につけていることが多いのです。
その対処法のひとつとして、「ネガティブな結果を自分のせいとして捉えない」や、「考え込まずに気晴らしをする」ことを書籍筆者は提案しています。
この提案、責任感のある人や自責思考の強い人からするとすぐには受け入れ難い考え方ではあると思います。無責任になれということ?と思うかもしれません。それは半分合っていて、半分間違っています。
まず、自分ではどうにもできないことに対して、責任感や自責の念を持つのは止めましょう。特に、他の人の思考(こころ、考え方、信念)は他の人からどうこう出来るものではありませんし、踏み入れるべきでもありません。
そして、責任感があることや自分ごととして考えることは、必ずしも悪いことではありません。要はバランス。自分の人生を自分のものとして、自分でコントロールしていきいきと人生を生きていくうえで、責任感や自分ごととして考える力は不可欠です。しかし、あまりに思い悩むと体に良くないのです。特にネガティブな自己注目がループしたり、ひとりで考え込むのは良くありません。
なので、まずは気晴らしをしましょう。誰かとおしゃべりしたり、朝の日差しの中をお散歩するのも良いでしょう。
そして、ネガティブな出来事ではなく、ポジティブな出来事をぜひ思い出してほしいのです。1日の中で、些細なことでも良いのです。きっと何か小さな「よかったこと、嬉しかったこと」があるはずです。そのようなポジティブを書き出してみて(寝る前がおすすめです)、ポジティブな出来事に自己注目する習慣ができていくと良いのではないかと思っています。