Satoshi Haradaの日記

Satoshi HaradaがAgileに関することを書き残していく日記

観察と意思決定にABC分析を活用する

私は製造業でアジャイルコーチとして働きながら、大学の心理学専攻に入学して心理学を学んでいる。

なぜアジャイルコーチである私が心理学を学ぼうと思ったか。それは、アジャイルは“人”を重視しており、チームワークが上手くいくかどうかも人に依存するからだ。よって、人の心を科学的に理解することで、アジャイルな仕事の進め方やチームワークをより科学的に理解することに繋がり、より良い仕事の進め方の実現に寄与すると考えたからだ。

私のブログの「心理学」カテゴリーでは、心理学に関する知見を大学講義をベースにご紹介しながら、アジャイルとの関連性や活用の可能性について考えていきたいと思う。

行動主義心理学と応用行動分析

人がある行動を起こすとき、その行動は過去の学習結果やその場の環境に基づいて引き起こされていると考えられる。これは行動主義心理学者であるワトソンから大いに影響を受けている。行動主観心理学では「人の行動は観察可能な刺激と反応によって説明できる」という立場を取っており、周囲の環境やそれまでの経験によってその人の行動が現れているという主張だ。応用行動分析もこの考え方に大いに影響を受けており、行動にはどのようなきっかけ(それまでの経験やその場の環境)があり、それによってどのような結果(経験)となっているのかを観察を通じて分析する。

ABC分析の視点で観察をする

応用行動分析において、人の行動はどのような経験や環境から引き起こされているのかを分析するための手法として、ABC分析という手法がある。

A: Antecedent(先行事象)

B: Behavior(行動)

C: Consequence(結果)

ABC分析の流れ

観察ではその瞬間の「行動」に着目しがちで、行動に対してどのような対処をしようかという発想になりやすい。しかし、行動の背景にはその行動に至った経験による学習と、その人が置かれている環境から大いに影響を受ける。

応用行動分析のABC分析を用いることで、行動はどのような経験から学習されていて、そしてどのような環境から引き起こされているのかを整理することができる。

そして、人は行動の結果から経験して学習をしている。行動の結果が自分にとって望ましいものであったなら強化となり、その行動を繰り返したり強めたりする。逆に行動の結果が自分にとって望ましいものではなかった場合は弱化となり、対象の行動を取らないようになる。

子どもの場合、強化と弱化による学習はしつけで活用されている。例えば、スーパーに子どもを連れていくと、お菓子を買ってもらいたいと泣き出す子どもがいたとする。そこでお菓子を買ってあげると子どもは泣き止むが、これはその子にとって「欲しいお菓子がある(A) -> 泣きながら買って欲しいとせがむ(B) -> 買ってもらえた(C)」という経験となり、結果は自分の望んだ通りとなったため強化となる。するとどうなるか。次にスーパーに連れて行ったときも泣いてお菓子をねだることになる。仮にABC分析を用いていない場合、子どもがスーパーで泣くことをどう対処しようかという視点になりがちだが、行動は環境と経験によって引き起こされるという視点でABC分析を行うことで行動の要因を整理できるのだ。

そしてこのこのケースでは、行動の結果が自分の望むものではない弱化になるように子供と接するのが有効と言える。具体的なABCの流れとしては「欲しいお菓子がある(A) -> 泣きながら買って欲しいとせがむ(B) -> 泣いても買ってもらえなかった(C)」である。

ABC分析と強化弱化

応用的には、スーパーに行く前から先行事象を構築しておく手もある。例えば「これからスーパーに一緒に行くけど、泣いたらお菓子は買ってあげないよ」と事前に伝えるのだ。これによって子どもは「泣いても買ってもらえない」という経験を想像し、自分の望む結果を得られないのなら泣くのはやめておこうという判断をすることもある。(これはしつけや保育で活用されている流れでもある)

観察と意思決定にABC分析を活用する提案

応用行動分析のABC分析は教育現場で活用されている。問題行動をしている子どもに対して、単純に行動だけを見て対処を考えるのではなく、どのような経験と環境からそのような行動が引き起こされているかを分析するのだ。そして行動を引き起こしている経験や環境を分析したら、環境の改善に役立てている。

わたしはこのABC分析が、アジャイルフレームワークであるスクラムでも活用できるだろうと考えている。スクラムは複雑な問題にチームで対処していくためのフレームワークだ。スクラムは主に産業分野で活用されているフレームワークではあるが、経験と学習を重視している点で応用行動分析やABC分析との親和性が高いと見ている。

スクラムフレームワークのガイドブックであるスクラムガイドでは以下のような表記がある。

スクラムは「経験主義」と「リーン思考」に基づいている。経験主義では、知識は経験から生まれ、意思決定は観察に基づく。リーン思考では、無駄を省き、本質に集中する。

つまり、良い意思決定は観察に基づいて行われる。そして、良い観察をするにはどうすれば良いのかは…実はスクラムガイドでは触れられていない。良い観察とは何で、そしてどのように行えば良いのかは、各自の現場の各々が考えていかなければいけないのだ。

良い観察をする力を極めていきたいスクラムマスターやアジャイルコーチにとって、ABC分析による応用行動分析は観察により奥行きを与え、行動主義に則った客観的な分析視点をもたらすだろう